流山市医師会について

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公開講座・講演会

【流山市医師会 市民公開講座】

2016.03.06

よく生き よく笑い よき死と出会う

アルフォンス・デーケン 氏 (上智大学名誉教授)

はじめに


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担当理事よりご挨拶申し上げます。
当日は想定外の600人を超える方がお越しくださり、入りきらなかった方には大変ご迷惑をおかけしました。講演の概要をご案内いたします。ユーモアで笑いを誘われたところがうまく表現できませんがお許しください。

講演でもご紹介いただきましたが、デーケン先生には36冊もの多数のご著書があり、一部は流山市の図書館にもございます。銀座教文館に、特設コーナーがあるそうです。お訪ねください。
また、上智大学を定年退職後も四谷でキリスト教入門講座を開講されており、無料で受講できるそうです。ホームページをご覧ください。 (http://members3.jcom.home.ne.jp/deeken-class/

始めのところで、マイクの調子が悪くて聞き取りにくかったと思いますが、
「私は名前が示すとおり何もでーけんです。
昨日の厚生労働省の統計によると・・・日本人の死亡率は何と100%なのだそうです。」
という、ユーモアからお話を始められました。

講演内容

1.幸せとは?

どうして幸せになれないのかを、不幸な状態を見ることによって説明されました。

A. 不幸な人の特徴

  • 自己愛に欠けている人、自己愛は自己中心的とは違います。
  • 相手をあるがままに受け入れられない人
  • 人生の各段階に応じて成長していない人
  • 手放すことのできない人、年を取るほどに手放せるように。
  • 他者を意識しすぎる人
    加賀乙彦著『不幸な国の幸福論』には「大勢の日本人は、何が客観的な善かより、周囲の人の考えを意識しすぎている」と書かれています
  • 人生の危機をチャンスとして使わない人
  • 退屈な日々を送る人
  • 主観的な幸福感と客観的幸福感
    実例に、麻薬違法使用で刑務所に入った人の場合、本人は麻薬を使って主観的には心地よく感じたかもしれないが、刑務所に入る人生は客観的には不幸。
  • 信じない人、愛せない人

2.人生における喪失体験と人格成長

約40年前、日本では死がまだタブーであったとき、上智大学で誰も教えたことのない「死」について教えようとしました。周囲の人は受講者が集まらないだろうと反対したが、「死の哲学」を開講したら毎年多くの学生が受講しました。
「生と死を考える活動」が全国に広まり、現在48か所あります。活動の3つの目標は、死への準備教育、ホスピス運動、身近な人を失った遺族のためのわかちあいの場の提供です。
大切な人をなくした後のグリーフケアはとても重要です。遺族が歩むグリーフワークは東日本大震災の後、注目されるようになってきましたが、私は遺族の悲嘆のプロセスを12段階に分けて説いています。苦しい悲嘆を乗り越えて生きることは、人格成長につながります。

A. カタルシス(浄化作用)としての悲嘆

◆ 悲嘆のプロセスの12段階

悲嘆のプロセスの各段階における行為は、喪失の体験に耐えて、これを受け入れ、現実に対する健全な適応力を回復するための必要な反応と言えます。死別を体験する人のすべてが、これらのプロセスを辿るわけではなく、必ずしもこの順番通りに進行するとは限りません。時には、複数の段階が重なって現れることもあります。

  • 精神的打撃と麻痺状態
  • 否認
    たまたまホスピス視察でニューヨークを訪れていたとき、2011年の9月11日、貿易センターのテロに遭遇しました。このテロで家族を失った人とお話しましたが、いつまでも葬儀を執り行わないで、帰りを待っていました。震災後の福島でも、同じようにいつまでも葬儀ができない家族がいました。ご遺体を目にしていないので、死を受け入れることができないのです。もしかしたら生きているかもしれないと思っているのです。
  • パニック
  • 怒りと不当感
  • 敵意とルサンチマン(うらみ)
  • 罪意識
  • 空想形成、幻想
  • 孤独感と抑鬱
  • 精神的混乱とアパシー(無関心)
  • あきらめ ─ 受容
  • 新しい希望 ─ ユーモアと笑いの再発見
    死別を体験者された方にどんなにおもしろい話をしても、笑わないのです。しばらくの間、笑えないのはしかたがないです。しかしながら、人間はユーモアなしで生きることはできませんし、健康にもよくありません。その後にユーモアを再発見して、笑いを取り戻していってほしいです。
  • 立ち直りの段階 ─ 新しいアイデンティティーの誕生
    例を挙げましょう。田中さんという方が亡くなられたとき、これまで奥さんは、「田中さんの奥さん」として生活されてきたことでしょう。しかし、ご主人が亡くなられた後、女性は長生きしますから、大抵の女性は夫の死後30年ぐらい(笑)生きるようですが、これまでと同じようにずっと「田中さんの奥さん」としては生きられません。新しいアイデンティティーを獲得する必要があります。

”Geteilte Freude ist doppelte Freude, geteiltes Leid ist halbes Leid.”
「共に喜ぶのは2倍の喜び、共に苦しむのは半分の苦しみ」…ドイツの古い諺です。
苦しいことを誰かに話し、親身になって聴いてくれる人がいれば、苦しいことが、半分とまでにはならないまでも、こころが少し軽くなり、癒されることと思います。

B. 苦しみの意義

◆ 希望への祈り

「神よ、私に変えられないことは、そのまま受け入れる平静さと変えられることは、すぐにそれを行う勇気と、そしてそれらを見分けるための知恵を、どうぞお与え下さい。」
誰の人生においても、変えられないことも多々ありますが、変えられることもあります。それを見分けて、積極的に歩んでいければ、幸せにつながります。

3.よき死と出会うために

A. 「死への準備教育(death education)」の意義

人は誰しも遅かれ早かれ身近な人の死に直面するものですが、日本では、死についてほとんど教育されていませんでした。

(1) 死の4つの側面

私は死を4つの側面に分けて考えています。

  • 死ときくと、だいたい普通みんな肉体的な死(biological death)のことを考えるようです。
  • 心理的な死(psychological death)とは生きる意欲を失ってしまった状態をいいます。老人ホームなどでよく見かけました。
  • 社会的な死(social death)の例を挙げましょう。札幌の看護師さんの話によると、入院患者さんの家族は初めの1週間は見舞いに何度も来るが、そのうちまったく顔を見せなくなるそうです。社会とのかかわりがなくなった状態と言えましょう。
  • 文化的な死(cultural death)とは、白い無機質な部屋のように、まわりに何の文化的な潤いがない状態のことです。

(2) 生命と生活の質(quality of life)を高めるために、音楽療法(music therapy)

芸術療法(art therapy), 読書療法(bibliotherapy)などは効用があるでしょう。
上智大学で学生の管弦楽団の顧問をしていたときに、カラヤンが来日した折、カラヤンに指導を依頼したことがありました。カラヤンは、管弦楽団を高く評価してくださり、ベルリンに招待してくれました。カラヤンは私より指揮がお上手でした(笑)。その時に演奏した曲は楽団員にとって、一生涯忘れることのできない曲となっています。その曲を耳にすれば、いつも記憶が蘇ります。
音楽はこのように誰にとっても忘れられない思い出を思い起こさせる力があり、音楽をきっかけとしてコミュニケーションの糸口が広がり、また癒しともなります。

(3) Sterbebegleitung(末期患者と共に歩む)~「すること(doing)」と「いること(being)」

”Der Helfer ist die Hilfe.” (Kierkegaard)
「救(たす)け人自身が救(たす)けである」… デンマークの実存哲学者キルケゴールの言葉です。
人は死に逝く人を助けるために何かをしなければならないと思いがちですが、ただ、病める人のそばにいることで、傍らにいること自体が助けとなるのです。

B. 思いわずらいからの解放

「晴れてもアーメン、 雨でもハレルヤ!」

この言葉は、不要なわずらいから自由になるための、私のスローガンです。
私たちは、明日は晴れるかしらと、よく心配します。そして晴れると気分も明るくなりますが、雨の日は、なんだかそれだけで一日中、気がめいってしまいます。しかし、毎日の天気のことなどはNHK(笑)に任せ、雨が降ったとしても発想を転換して、明るく過ごす方が幸福でしょう。
私がよく使うたとえですが、グラスにワインが半分入っています。さて、あなたはどう感じるでしょう?「ああ、もう半分しかない・・・。」とがっかりする人は悲観的な人で、「ああ、よかった、まだ半分もある!」とにっこりする人は楽観的な人です。同じ量のワインでありながら、その受け止め方は全く対照的です。これはそのままその人の生き方にも通じます。

C. 時間意識の再考

時間を表すギリシア語には「クロノス」と「カイロス」という二つの異なった概念があります。「クロノス」は物理的な時間の流れを意味します。年、月、日、分、秒で流れる量的な時間です。一方「カイロス」は二度とめぐってこない決定的な瞬間を意味します。唯一無二の独自でかけがえのない質的な時間です。思いがけなく訪れるカイロスを活かすためには、時間の使い方を再考することをお勧めします。
好きな人と会話するときの30分はあっという間です。2時間でも3時間でも続いてほしい時間です。一方、最も長く感じた時間は、ある雨の日曜日傘を忘れて、バス停で30分を過ごした時でした。30分がとても長い時間に思えて、いったいいつバスが来るのかと時刻表をよく見たら、小さな字で「日曜日にはバスは運休します」と書かれていて(笑)ますます長い時間だったと感じました。

4.ユーモアに満ちた人間関係を築く

A. ユーモアは愛と思いやりのあらわれ

日本では、ユーモアとジョークを混同する人が多いようですが、はっきり区別しています。ジョークは頭の中の技術です。テレビのバラエティ番組で、タレントやお笑い芸人が振りまくドタバタした笑いなどはほとんどがジョークですね。誰かを傷つけるようなことを言って笑いものにするのは、残酷な行為です。当てこすりや、とげのあるきついジョークは慎むべきです。
一方ユーモアは、心から心へ伝える愛の表現であり、思いやりを原点とした温かい態度です。私自身は、子どものとき、父から真のユーモアについて学びました。8人の子供たちがみんな平等にユーモアを授けられました。父に感謝しています。
第二次世界大戦下、身近な人の理不尽な死を何度も目撃した幼い私は、笑いとユーモアを失っていた時期がありました。そんなある日、父から散歩に誘われました。清々しい空気に包まれて、森を散策する間、父は「苦しい体験があっても、にもかかわらず笑うことは、深みのあるユーモアだよ」と繰り返し言いました。父は命がけで反ナチ活動をするようなまじめで一徹な人でしたが、一方でユーモアにあふれ、夜そろって食卓を囲むときなどは、父がみんなを笑わせて、和やかな雰囲気をつくりだしていたのです。まじめな父のユーモアは、戦時下の張りつめた空気をほぐし、楽しい空気に変える魔法のようでした。「人間は笑うことができる唯一の動物だ」と聞いて、幼い私は猫を集めて実験をしました。猫の前でへんな顔をして見せましたが、1匹も笑ってくれませんでした(笑)。

B. 自己風刺のユーモアの大切さ

”Humor ist, wenn man trotzdem lacht.”
ユーモアとは「にもかかわらず」笑うことである … ドイツの有名な定義

中学校でいじめに関する問題が起こり、学校長の方々のために講義をしたことがありました。その後、中学校の国語の教科書に「ユーモア感覚のすすめ」という文章を書くことになりました。日本語の教科書ですよ。始め、冗談じゃないかと思いましたが、挑戦だと思い、書きました。書いた原稿を文部科学省が細かく点検しました。一番最後がいけないといわれました。そこには、「アルフォンス・デーケン、ドイツ生まれ、上智大学教授」とありました。これでは、中学生がみんな上智に入ってしまう!慶応も早稲田も困るということで「アルフォンス・デーケン、ドイツ生まれ、今は日本で生活している」となりました。 ユーモアには、そよ風のように、周囲の人たちを優しく包み込む働きがあります。
しかし、大切な人と死に分かれて、悲嘆の渦中にいる人に笑顔を取り戻させるのは至難の業です。長年頭を悩ませ、試行錯誤し、失敗を繰り返すうちに、自己風刺のユーモアの深さに気づかされました。自分の失敗や弱点を客観視して、おおらかに自分自身を笑うのです。

アンケート集計

1、講演について

  • レジメが良かった。
  • より深く知りたい。
  • ファンです。
  • カタカナ語がわかりにくかった。
  • 著書も読みたい。
  • 音楽療法を学ぶ大学生です。先月姉が32歳で、乳がんで亡くなりました。人生いろいろあってもユーモア(思いやり・笑い)が大切ということに共感することができました。
  • 同じ毎日でも考え方次第で変わることを学びました。
  • 国を超えてつながれること。ユーモアは苦しい時こそ生まれる、育てることの大切さを知りました。
  • 母を3年前に亡くしました。涙があふれました。
  • 2か月前父が亡くなり、納得できました。
  • 人生をいかに豊かに生きるか自分のモチベーションにかかっている。不幸な人の特徴にピッタリあっている自分に気づくことができ、とても有意義な時間を過ごすことが出来、感謝。スマイルを忘れないよう、一歩踏み出したいと思う。
  • ユーモアを交えての講座とても楽しかったです。
  • 自分にもあてはめて、がんばろうと思いました。有難うございました。
  • ユーモアのあるのとないのとでは、幸福感が大きく変わるのだろうなと改めて感じた。デーケン先生のようにユーモアを忘れずに年を重ねたい。 デーケン先生お元気で。

2、講演を知った方法

  • 医療機関36人
  • 公共ポスター27人
  • 所属する団体26人
  • 知人22人
  • 駅のポスター12人
  • 市の広報17人
  • 「パド」12人
  • チラシ3人
  • 「ちいき新聞」3人
  • 市のHP2人
  • 新聞1人
  • 前回講座での案内1人
  • その他2人
  • 無回答12人

3、企画運営について

  • 満員で会場が狭かった。
  • 音響が悪かった。(本当に申し訳ありません)
  • たくさんの参加者に感動しました。
  • 机がほしい。
  • 暑かった。
  • 文化会館より駅から近くて良かった。
  • 質問時間がないのが残念。
  • 時間が短かった。
  • 要約筆記が良かった。
  • 席を譲ってもらえてありがたかった。
  • ベンチを用意してもらえてありがとうございました。
  • 年1回では少ないです。
  • 無料なのが有り難い。
  • ホール展示も欲しい。
  • 初めて知りました。とても良い時をもらえました。また参加したいです。
  • 前回も参加しました。(6人)
  • 次も期待しています、続けて下さい。

4、要望・今後期待するテーマ

  • 医師の話を聞きたい。
  • 人間ドックについて
  • 健康寿命を支える生き方について
  • 栄養の取り方
  • 体を動かす運動を教えて
  • 心身の健康
  • 認知症の進行防止

(文責 / 流山市医師会担当理事 戸倉 直実)

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